「サチュレーションが下がっています!」と呼ばれたときの考え方

入院患者の呼吸不全にどう向き合うか

当直中の研修医なら、一度はこんなコールを受けると思います。

「○号室の患者さん、サチュレーション 85%です!」

この瞬間、頭の中は

  • とりあえず病棟に走るべき?
  • 電話口で何を指示したらいい?
  • どこまで自分で判断して、どこから指導医を呼ぶ?

でいっぱいになります。

この記事では、**「入院患者の酸素化低下で呼ばれたときに、研修医がどう動くか」**を、シンプルなフレームに整理します。
臨床推論の流れも意識しながら、「とりあえず採血と点滴…」から一歩抜け出すことを目標にします。


1. まず押さえておきたい「呼吸不全」のイメージ

細かい数値は覚えなくてかまいませんが、ざっくりこんなイメージがあると便利です。

  • 血液中の酸素が明らかに足りない状態が「呼吸不全」
  • SaO₂(動脈血酸素飽和度)や PaO₂(動脈血酸素分圧)で評価する
  • 病棟では、まず SpO₂(パルスオキシメータ)低下で気づかれることが多い

ここで大事なのは、

  • SpO₂ だけを見ない
  • 呼吸数・意識・血圧などもセットで評価する

という姿勢です。
これも立派な「臨床推論」の一部です。


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2. 架空症例で流れをイメージしてみる

  • 80歳女性、誤嚥性肺炎で入院中
  • 日勤帯は経鼻カニューレ 1 L/分で SpO₂ 96%
  • 深夜、看護師から

    「SpO₂ 84%です。呼吸がしんどそうです」
    と当直のあなたに電話が来た

ここから、「時間順に何をするか」を考えていきます。


3. Step 1:病棟に行く前に電話でやること

いきなり走り出す前に、電話口で最低限の情報をそろえると、その後の動きがかなり楽になります。

3-1. 確認すること

  • 今のバイタル
    • 呼吸数(必須)
    • 血圧・脈拍
    • 意識レベル
    • 体温
  • 酸素投与の状況
    • 何 L/分か
    • デバイス(カニューレ / マスク など)

3-2. 指示することの例(酸素なし → 低下)

  • 「鼻カニューレ 2〜3 L/分で開始して、SpO₂ 90〜95%くらいを目標に 1 L/分単位で調整しておいてください」
  • 「SpO₂ と心電図モニターもつけておいてください」

SpO₂ が 70%台など明らかに低いときは、

  • リザーバーマスク 10 L/分での酸素投与を依頼
  • 同時に 指導医(or RRT)へのコールも入れておく

この「電話での初動」が整っていると、病室に着いたときに一段落ついていることが多くなります。


4. Step 2:病棟に到着して最初の 5 分

「今この瞬間、安全か?」を見る

病室に入ったら、細かい問診より先に

  1. 今の酸素化がどれくらいまずいか
  2. ABCD のどこが危ないか

をざっくりチェックします。

4-1. 酸素化のざっくり評価

  • 何 L/分・どのデバイスで SpO₂ 何%か

    • 鼻カニューレ 2 L/分で 94% → いったん落ち着いて評価可
    • リザーバーマスク 10 L/分で 88% → かなり危険、1人で抱えない

「リザーバーマスクをフルで流してやっと 90%近く」という状況は、必ず指導医と一緒に診るレベルと決めておくと安全です。

4-2. 初期 ABCD 評価

数十秒でいいので、次のように見ます。

  • A:声は普通に出ているか、いびき様呼吸や強い嗄声はないか
  • B:明らかな頻呼吸・努力呼吸、左右差のある胸郭運動はないか
  • C:脈は触れるか、冷汗・四肢冷感・著しい血圧低下はないか
  • D:意識レベルはどうか(JCS / GCS)

ここで「ABC が今まさに崩れそう」と感じたら、

  • ルート確保(太めが望ましいが、まずは入るサイズで可)
  • 処置室・観察室などへ移す準備
  • 指導医・救急チームへの連絡

を並行して動かします。

研修医の臨床推論としては、
「この人はどこで、誰と一緒に診るか」を先に決めることがすごく大事です。


5. Step 3:5〜10 分でやる「2次 ABCD」

A と CO₂ と C をシンプルに見る

初期対応が走り始めたら、次はもう少し踏み込んだ ABCD 評価です。
ポイントは 3 つに絞れます。

  1. 本当に A(上気道)由来ではないか
  2. CO₂ 貯留(低換気)がないか
  3. ショックを合併していないか

5-1. A の異常をざっくり除外

A の異常を疑うサイン

  • 頸部で一番強く聞こえるヒューヒュー(吸気性喘鳴)
  • 強い嗄声・発語困難
  • 口腔内・頸部の明らかな腫脹

逆に、普通に会話できていてこうした所見が乏しければ、
**「少なくとも今は A 由来の呼吸不全ではなさそう」**と判断できます。

A が怪しければ、自分で深入りせずに早めに救急・麻酔・耳鼻科・指導医に相談するのが安全です。

5-2. CO₂ 貯留と pH を確認する

A が大丈夫そうで、ある程度 SpO₂ も上がってきたら、動脈血ガスをとります。

見るポイントはざっくりで十分です。

  • PaCO₂ 高い?(2 型呼吸不全っぽいか)
  • pH 下がってる?(呼吸性アシドーシスが強いか)
  • HCO₃⁻ 高い?(慢性的な CO₂ 貯留の背景ありそうか)

pH が大きく下がっていれば、

  • 低換気を伴う B の異常
  • NPPV や人工呼吸器が必要になるかもしれない

という「レベル感」を意識し、早めに指導医に共有します。


6. Step 4:10〜30 分でやる「絞り込み」

よくある原因にフォーカスした臨床推論

ここまでで

  • 低流量の酸素投与で SpO₂ が安定
  • A に大きな問題なし
  • 危険なレベルの低換気・ショックなし

と評価できれば、少し落ち着いて「原因探しの臨床推論」に入れます。

6-1. 入院患者の呼吸不全でよく出るもの

頻度が高いもの

  • 痰詰まり・誤嚥
  • 肺炎(COVID-19 を含む)
  • 急性心不全

頻度はそこまで高くないが見逃したくないもの

  • 気管支喘息発作 / COPD 急性増悪
  • アナフィラキシー
  • ARDS
  • 肺血栓塞栓症
  • 気胸

臨床推論としては、「全部を網羅」ではなく、
「出やすい + 見逃すとまずい」をすぐ思い出せるかがポイントです。

6-2. 最低限の問診の視点

息苦しい患者さんに長時間の問診はしません。
短時間で、診断に効くところだけ聞きます。

  • いつから・どのくらいの速さで悪くなったか
  • 何かの薬や輸液・造影剤などの後か
  • 起坐呼吸の有無(心不全 / 喘息・COPD を強く示唆)
  • 心疾患・慢性呼吸器疾患の既往
  • 嚥下障害や吸痰が必要な背景があるか
  • 術後・担癌・長期臥床など血栓リスクが高いか
  • 最近の CV 留置・気管支鏡など気胸リスクとなる処置がないか

6-3. 診断に効く身体所見

非専門医でも押さえておきたいのはこの辺りです。

  • 頸静脈怒張 → 心不全、肺血栓塞栓症 など
  • 胸部触診で「ゴロゴロ振動」 → 痰詰まり
  • 肺音
    • 片側の呼吸音ほぼなし → 気胸 / 大量胸水 / 無気肺
    • wheeze → 喘息・COPD 増悪、心不全、アナフィラキシー など
    • crackles → 肺炎 / 心不全 など
  • 下肢浮腫
    • 両側 → 心不全
    • 片側 → 深部静脈血栓症 → 肺血栓塞栓症を疑う
  • 膨疹 → アナフィラキシーを強く示唆

このくらい拾えると、胸部 X 線や血液ガスと組み合わせて、かなり診断の方向性が見えてきます。


7. 検査の組み立て方(ざっくり版)

細かい検査セットは病院ごとに違いますが、研修医としてイメージしておきたいのは次の 3 つです。

  1. 血液ガス

    • PaCO₂・pH・HCO₃⁻・PaO₂ をざっくり把握
    • 「低酸素だけか」「低換気もあるか」「ショックっぽい乳酸上昇があるか」を見る
  2. 胸部 X 線

    • 気胸・胸水・無気肺・心不全・肺炎 などの大まかな分類に役立つ
  3. その他(必要に応じて)

    • 採血(血算・生化・CRP・BNP・トロポニンなど)
    • 培養(肺炎を強く疑うとき)
    • 12 誘導心電図(心不全や不整脈が関係しそうなとき)
    • CT(X 線や所見だけでは原因がわからないとき)

CT は「移動中の急変リスク」というデメリットもあるので、
A・B・C がある程度安定してから 指導医と相談して決める、というスタンスが安全です。


8. タイムラインで振り返る「呼ばれたときの型」

最後に、時間軸でまとめ直します。

  • 病棟到着前

    • バイタル(特に呼吸数)と酸素状況を電話で確認
    • 酸素投与と SpO₂・モニターの指示
    • 高度低下ならリザーバーマスク+指導医にも同時コール
  • 到着〜5 分

    • 酸素化の確認(デバイス・流量つきで)
    • 初期 ABCD 評価
    • ルート確保
    • 診療場所の調整(必要なら処置室等へ)
  • 5〜10 分

    • A の異常がないか確認
    • 血液ガスで CO₂ 貯留と pH をチェック
    • ショックの有無もざっくり評価
  • 10〜30 分

    • 胸部 X 線・採血などを行いながら
    • 痰詰まり・肺炎・心不全など「頻度が高く見逃せないもの」を中心に臨床推論
    • 診断のアタリがついたら初期治療を開始
    • 不明なら CT やエコーも検討(必ず上級医と相談)

9. まとめ:型を持って臨床推論を回す

入院患者のサチュレーション低下は、研修医にとってプレッシャーの大きい場面です。

  • いきなり病名当てに行かず、時間軸にそった「型」で動く
  • ABCD で「今この瞬間の安全」を確認してから、原因の臨床推論に入る
  • 「頻度が高く見逃せないもの」だけでもすぐ思い出せるようにしておく

この 3 つを意識するだけで、当直の怖さはかなり下がります。

臨床推論の勉強というと、「鑑別をひたすら挙げる」イメージになりがちですが、
当直・病棟ではむしろ

「限られた時間の中で、どう優先順位をつけて動くか」

まで含めて臨床推論だと思ってもらえるとよいと思います。

1 症例ごとに、「あのとき自分はどう動いたか」「どこで迷ったか」を振り返りながら、
少しずつ自分なりのフレームを育てていきましょう。